シミズの人

医師と言語聴覚士が一丸となって、
自宅復帰の後まで見据えたリハビリテーションを

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洛西シミズ病院の回復期リハビリテーションセンターでは、8名の専従医師と108名のセラピストを中心に、土日祝日・年末年始を含む365日、1日最大3時間のリハビリテーションを実施し、患者さまの早期復帰に向けて取り組んでいます。

救命治療から体の回復を図る治療へスムーズに移行できるように

患者さま、ご家族の希望や気持ちを引き継いだリハビリテーション

桐谷:京都の西エリアなどで脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)を発症した緊急性の高い患者さまの多くは、まずSCU(脳卒中ケアユニット)病床を備える当グループのシミズ病院に救急搬送されます。そこで高度な急性期治療を行い、容態がある程度安定してきたら、次にリハビリテーションを中心とした回復期治療のできる病院に転院することが必要になります。洛西シミズ病院回復期リハビリテーションセンターでは、そうした患者さまを受け入れ、早期回復と在宅復帰・社会復帰をめざしています。

私たちリハビリテーション科の医師は、転院前からシミズ病院に入院された患者さまのカルテに目を通し、SCUや脳神経外科にも出向いて患者さまの状態を確認します。例えば、リハビリテーションは1日最大3時間行うので、それに耐えられる状態なのか、介助量はどうか、運動や嚥下の状態はどうかなどを事前にしっかり把握し、転院後のリハビリテーションをスムーズに進められるよう準備します。こうした連携ができるのはグループ病院ならではのメリットですし、患者さまだけでなく、ご家族のご希望やお気持ちなども引き継いでいくことができるので、安心される方が多いです。

もちろんグループ以外の病院からの受け入れもありますので、その都度、セラピストと連携しながらリハビリテーションをスタートさせています。

永井:洛西シミズ病院には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を合わせ100人を超えるセラピストがいます。また、関西でも珍しい1,300㎡もの広々としたリハビリテーションエリアがあり、免荷装置の付いた15mの直線歩行訓練レーンや50mの歩行訓練トラックコース、またリハビリテーション用ロボットなど設備が充実し、患者さま一人ひとりの状態に合わせたオーダーメードのリハビリテーションが行える環境が整っています。

そうした中で桐谷先生は、言語聴覚士をはじめセラピストの話をよく聞いてくださるので、とてもありがたい存在です。検査やリハビリテーションについての話はもちろん、自分たちの考えや悩みも相談しています。急性期治療を行う病院からカルテを引き継ぎ、患者さまの状況を教えてもらえるとはいえ、急性期と回復期では、患者さまには身体的な面でも心理的な面でも、また違った負荷がかかります。桐谷先生のように当センターに常駐の医師がいて状況把握をしっかりされていると相談しやすく、ご本人の状態やご家族の気持ちなどを考慮しながらリハビリテーションのゴールを決めて、自信をもって取り組むことができます。

桐谷:勤務日は必ずリハビリテーションエリアに顔を出し、コミュニケーションをとるようにしています。リハビリテーション科専従の医師は、病棟にいる時間が他科の医師より長く、入院患者さまと向き合う時間は多いです。しかし、一人ひとりの状態をリアルタイムで把握するのは難しい部分もあります。永井さんたち108名のセラピストが、患者さまに身近に接して感じたこと、気づいたことを細かく報告してくれるのですごくありがたく感じています。

永井: 私は言語聴覚士なので、例えば患者さまの機能低下による誤嚥の危険性が高ければ検査で嚥下のチェックを行い、検査結果によって「こういう食事にしましょうか?」と提案します。そして看護師さんと連携して、食事の状況の確認を朝夕行います。ミキサー状から固形まで、どれくらいなら食べられるのか、医師に報告しながら食事形態を考えていきます。

食事は、やはりとても大事なことです。以前、90代の患者さまの嚥下機能が低下していて、水分では、はちみつくらいの強いとろみをつけたものでも飲めない状況でした。かろうじてゼリー状のおかゆが食べられるくらいの状態で、当初はご本人もご家族も治療に意欲的でしたが、「退院しても、もう大好きなコーヒーが飲めない」と落ち込まれていき、元気が次第になくなっていってしまいました。

ご家族からその患者さまが、「入院前は毎日喫茶店に行って、コーヒーを飲むのが楽しみでした」と聞き、なんとか意欲を向上させられないかと考え、コーヒーゼリーならどうかと提案してみました。しばらくして、医師から許可を得たタイミングでコーヒーゼリー食を実行してみたところ、患者さまが治療への意欲を取り戻し、最終的には自宅復帰も嚥下機能の回復も叶いました。自分だけでは判断できませんでしたが、医師に相談しながら対応できたことで、患者さまの回復につながったことがとても嬉しかったです。

桐谷:全然食べられないという方は、胃ろうや点滴などで栄養自体は摂れますが、やはり食事をするという意欲は必要だと思います。もちろん、人によって価値観が違いますし、誤嚥による肺炎や窒息の危険性などにも十分注意する必要がありますが、自宅復帰への意欲にもつながりますしご本人の気持ちを尊重して対応していくようにしています。

嚥下状態を確かめる検査は機械で行いますが、バリウムや内視鏡を使ったり、実際に食物を使ってきちんと食べられているかどうかを確認したり、細かい手続きや準備が必要です。そうしたことも永井さんたち言語聴覚士が手配してくれることが多く、助かっています。その結果、スムーズにリハビリテーション計画を立てられたり実施できたりするので、患者さまに余計な負担や心労をかけることがなく安心してリハビリテーションを進めることができています。

急性期・回復期・慢性期・訪問リハビリなど、シミズ病院グループの連携のもとで得た、さまざまな経験と知識をもとに、スタッフは患者さまと向き合い、一人ひとりの状況に合わせたリハビリテーションを提供しています。また、自宅復帰を最終ゴールとするのではなく、その後の患者さまとご家族の生活が充実したものになるよう、長期的な視点で取り組んでいます。

グループ病院だからこそ実現できる幅広いキャリアアップ

学会発表やグループ内の連携で知識も実務能力も向上

永井:私がこのシミズ病院グループを選んだ理由の一つは、グループ病院も含めてスタッフが大勢いて、いろいろなことを学べる機会が多いからです。当グループには介護施設や訪問看護の在宅サービスも提供しており、退院後に気になっていた患者さまの状況を同僚のセラピストを通じて知ることができるのも魅力の一つだと思います。将来、病院リハビリ以外の道に進みたいと思った時に、その道を選択できるようなキャリアアップを常々したいと思っています。ここなら経験が偏ってしまう心配もありませんし、いろいろな方と関われるので、経験値も上がると考えています。一つの症状を改善させるだけでなく、なぜその病気が起こったのか根本的な問題を理解する力も今後必要になってきます。たくさんの学びの機会をいただき、当グループを選んだ自分の判断は間違っていなかったと感じています。

現在、学会で発表する準備を進めているところです。テーマは「脳卒中患者の栄養とADLの関係について」。年齢などの条件に合った100名近くの過去入院された方のデータを分析し、栄養状態とその後の回復について調査しました。例えば、栄養状態が悪いと、日常生活の回復度合いが低かったり、嚥下機能が上がらなかったりすることなどが分かり、リハビリテーションを行う際は栄養面の管理も大切だということを発表する予定です。発表後は、その内容やそこで学んだことなどを職場のスタッフに伝達して、知識を共有するように考えています。大変な部分もありますが、自己成長もできますし、施設全体の知識向上にもつながるのでやりがいを感じています。

桐谷:当グループのセラピストは、非常に勉強熱心だと感じますね。毎日の業務の合間に、学会発表の準備をするのはすごく大変だったと思います。うちは永井さんをはじめ、新しいことを学ぶ意欲のある人が大勢います。今後は他職種とも連携して、勉強会をしていけたらいいと思っています。

具体的には、回復期から自宅復帰や慢性期に移行された患者さまにもアプローチしていく術を模索中です。退院して終わり、ではないですし、自宅で継続して行っていく必要があるリハビリテーションなども、専門的な行為になればなるほど、病院から伝えたことを実際に家でも継続できているかどうか分からない部分があると思います。訪問看護や訪問リハビリテーションのチームと連携していくことも大切です。最近では、当院の医師がグループ内の訪問リハビリテーションを行っています。

永井:現在は、気になっている患者さまの情報を、グループで連携して確認・共有しています。今はまだ、訪問リハビリのチームからお話を聞くことがメインになっていますが、今後は自分自身も訪問リハビリにぜひ携わっていきたいと思っています。

リハビリテーション科部長
桐谷 奈央子

プロフィール

2003年兵庫医科大学医学部卒業。京都府立医科大学付属病院、大阪府済生会吹田病院、北大阪警察病院、十条武田リハビリテーション病院などの勤務を経て、2018年4月より洛西シミズ病院で勤務。2022年4月より現職。

資格・経歴

日本リハビリテーション医学会専門医・指導医

義肢装具等適合判定医師

日本認知症学会指導医・専門医

日本渡航医学会所属

麻酔科標榜医

言語聴覚士

永井 佳穂